お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「夏美は、教室を再開する気はない?」
「それは……」
もちろん、考えなかったわけではない。しかしプロにもなれなかった私が、生徒さんたちに本当に必要されるのだろうかと考えると、怖くて教室を再開する勇気が出なかった。
「今の私に囲碁を教えてもらいたいなんて思う人、きっといないよ」
不合格後、私は囲碁もすっぱり止め、今はもうただのOLだ。祖父の名前を出せば興味を持ってくれる人いるかもしれないけれど、そんなことをしてまでもう一度教室を、という気にはなれない。
「そんなことないと思うけどな」
「えっ?」
驚く私を見て、拓海がにっこりと微笑んだ。
「俺、囲碁やってみたいと思ってた。大学の頃も、夏美に指南してもらえないかなって思ってたよ」
「えっ、そうだったの?」
「夏美に頼んでみようかなとも思ったんだけど、プロ試験に向けてずっと忙しそうだっただろ。だから言えなかった」
「……そうだね」
たしかにあの頃は、毎週のように行われる対局をこなすだけで精一杯だったし、教室以外の場所で人に教える余裕なんてなかった。
「大事な時期に邪魔したくなかったし、夏美には試験に集中していて欲しかったんだよな」
拓海はそこまで考えてくれていたのに。私は八つ当たりなんかして……本当に恥ずかしい。