お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「でもね、拓海が囲碁をやりたいって言ってくれたとしても、あの頃の私は断っていたかもしれない……」
私も大学に入ったばかりの頃は、自分から親しくなった人たちに囲碁の話をしていたのだ。ルールを教えるから、一緒にやってみない? と誘ってみたこともある。
でもみんなから「難しそう、なんだか年寄りくさい、覚えるのが面倒くさい」なんて言われてしまい、撃沈。そして私は、囲碁経験者であることをあまり自分から口にすることがなくなった。
「年寄くさいって。プロの世界にも、若くしてタイトル保持者とかいっぱいいるだろ」
「いるにはいるけど……。興味がない人には、そういうニュースも耳に入ってこないんじゃない?」
教室経営に携わっていたこともあって、以前は囲碁人口を増やしたいという気持ちもあったのだ。けれど教室を畳むとともに、そんな気持ちもしゅるしゅると萎んでしまった。
「じゃあさ、次は碁盤と碁石を用意してくるよ。そしたら、俺にも教えてくれる?」
「それは、別にいいけど……」
次、があるのか。それは、いったいどんな形で? 言葉に詰まっていると、拓海が少し茶目っ気を含んだ顔で微笑んだ。