お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「申し訳ありません。相手のことを考えずに自分の気持ちを押しつける方も、すぐに手をあげる方も、結婚相手としては考えられません。お話は、なかったことに」
「そ、そんな。でも僕は、もう後がなくて……」
「後? なんのことかはわかりませんけど、今日のことは榊にご報告させていただきます」
おじさまの名前を出したとたん、さすがにヤバいと思ったのか、加藤さんの顔がみるみる歪んでいった。
「わ、わかりました。怖がらせるような真似をして申し訳ありませんでした。失礼します……」
加藤さんはがっくりと項垂れて私に背を向けた。そのままふらふらと、ラウンジの外まで歩いていく。彼の姿が見えなくなり、ようやく私も緊張が解けた。
そうだ、助けてくれた人にお礼を言わなきゃ。
「あの」
男性を振り返り、頭を下げる。
「ありがとうございました。助かりまし……」
「相変わらずの気の強さだな。清家夏美」
フルネームで呼ばれ、弾かれるように顔を上げた。