お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
君となら
「ねぇー、さし飲み中にそれはないんじゃない?」
「えっ? あっ、すみません」
いつの間にか、また考え込んでいたらしい。テーブルの向かい側では、不機嫌そうな顔で綾さんがおつまみのチーズを齧っている。
一方私のジョッキには、まだ半分以上ビールが残っている。乾いた喉を潤そうとジョッキを傾けると、ビールはすっかりぬるくなっていた。
「だいぶ魂持ってかれてるじゃない」
「そんなことはないですよ」
「あるわよ。ボーっとしちゃってさ」
週明け。仕事を終えて会社を出ようとしているところを、綾さんに拘束された。
拓海とのお見合いの件は、おじさま経由でもちろん綾さんの耳にも入っていた。「夏美ちゃんには、私への報告義務があるのよ」と終業後に個室のある居酒屋に連行されたのだ。
綾さんには、契約結婚のことは伏せて、拓海からプロポーズされたと報告した。
「で、返事どうするの?」
「どうしましょう……」
ぬるいビールを、チビりと啜る。
拓海にどう返事をするのか、結論はまだ出ていない。お見合いの後からずっと考えているけれど、簡単に答えは出せない。