お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「遅くなってごめん。だいぶ待たせたな」
「ううん。わざわざ来てくれてありがとう」
車の方へ近づいていくと、拓海が助手席のドアを開けてくれた。そんなことを男性にされるのは初めてで、戸惑ってしまう。
「乗らないの?」
「の、乗る」
助手席に収まると、シートベルトまで締めてくれた。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
笑顔で返し、ドアを閉める。
やることなすこと全てがスマートで、拓海は女性をエスコートすることに慣れているんだなと思う。
ちょっと複雑な気持ちになるのは、なんで?
「夏美、お昼まだだよね?」
「うん」
動き出した車の中で考え込んでいると、拓海に話しかけられた。
「とりあえず食事に行こうか。腹が減って仕方がないんだ。今日のクライアント、話が長くってさ。ったく、ゴルフの話なんか振られても、俺にはわかんないよ」
「いいよ、行こう。私もお腹空いた」
学生の頃みたいな砕けた物言いについ噴き出してしまう。
気が塞いだような気がしたのは、きっと気のせいだ。
こういう『デート』みたなことに慣れていないから、緊張していただけなのかも。
拓海のおかげで、少し気持ちが楽になった気がした。