お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「自分で選んだ道だから、後悔はしてないよ。でも、正直疲れるって思うこともある」
自分と比べるわけじゃないけれど、私なんかが想像できないような大変さもあるだろう。それだけ、拓海がいるのは特殊な世界だと思う。
「今日夏美と一緒にいて、久々に素の自分に戻れた気がしたんだ。きっと夏美とだったら、この先も楽しく笑い合って過ごせると思う」
『友人としてじゃなく、結婚するかもしれない相手として祖父江さんを見てみれば?』
綾さんから言われた言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
私も、今日拓海と一緒にいて、楽しかった。感じた不安も、彼は丁寧に払拭してくれた。そしていつの間にか、この時間が終わってしまうことを、寂しいと思っている自分がいた。
――これって、もう答えは出ているということじゃないの?
「もう一度言う。夏美、俺と結婚してくれないか?」
薄暗い車内でも、返事を待つ拓海が息を詰めているのがわかる。
「……わ、私でよければ」
私の中にもう迷いはなかった。
「よかった! 夏美のこと大切にするよ。約束する」
そう言って、拓海は安堵のため息をつく。仕事のときとは違う、彼本来の柔らかい笑顔を、私は結構好きだなと思った。