お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「それにしても、夏美ちゃんの忘れられない人とは祖父江くんのことだったのか。どうして言ってくれなかったんだい」
「え? えっと……そう、恥ずかしかったんです」
拓海と打ち合わせをしたとおり、これまで私がお見合いから逃げてばかりいたのは、彼の存在があったからだということにした。
「まあ、彼のような人がいたのなら、私がどんなにお見合いを勧めようと、他の男性に心が動くはずがないよな」
「はあ、まあそうですね……」
心苦しいけれど、ここは二人で決めた通り、嘘をつき通すしかない。
「亡くなった清家先生のご恩に報いるためにも、これ以上ないほど贅を尽くした結婚式にしなくてはならないな」
「お、おじさま。私たちはべつにそんな……」
日取りに式場に招待客、料理のランクに引き出物のブランドまで。おじさまの口から、次々に結婚式の案が出てくる。私の言葉なんて、耳にも入らないみたい。
結婚の話を聞けばおじさまが張り切るのは予想できていたけど、まさかここまでだなんて。
「社長、結婚するのは清家さんなんですよ。祖父江さん側のご都合もあるんだし、社長が勝手にどうこうできるお話ではないのでは?」
「綾さん……!」
お見合いだけでなく、結婚式でも暴走しようとするおじさまを、秘書である綾さんが宥めてくれた。