お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「そうはいってもなぁ、それじゃ私の気がすまんのだよ」
何年も待たせたのだ。おじさまの気持ちも分かるのだけれど……。
どう言ったら、おじさまは納得してくれるのだろう。
「あの、ちょっとよろしいですか」
焦って言葉を探していると、拓海がゆっくりと口を開いた。
「僕も夏美さんも、榊社長のこれまでのご厚意には、心から感謝しています。そしてこれからは、僕たちが榊社長にご恩をお返していく番だと思っているんです」
拓海の口から発せられたのは、思いもよらない言葉だった。
おじさまへの感謝を伝えていくのは、今まで散々お世話になった私の仕事だ。契約で私と一緒になったにすぎない拓海が、背負うことではないのに。
そんなふうに、考えていてくれたの?
「幸せな彼女の姿をお見せすることが、榊社長への一番のご恩返しだと僕は思っています。結婚式も、その一つ。夏美さんと二人で、心を込めた結婚式を作り上げたいんです。だからどうか、僕たちを信じて任せてはいただけませんか」
そう言いきると、拓海はおじさまに向かって静かに頭を下げた。
「おじさま、お願いします」
私も彼に続く。
少しの間沈黙が続いて、おじさまはため息とともに言葉を吐き出した。