お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「さあ、俺の方は書けたよ。夏美も書いて。印鑑は持ってる?」
「持ってる……」
先日たまたま銀行に行く用事があったせいで、鞄の中に印鑑を入れっぱなしだった。もうあとには引けない。
拓海から万年筆を受け取り、震える手で自分の名前を書き、判を押す。これを出してしまえば、その瞬間から私は、祖父江夏美だ。
「どうせなら、そのまま区役所に出して帰ろうか」
「え? ええ、もちろん……」
挨拶に行ったその日に、まさか籍を入れることになるなんて。驚きの展開なのに、拓海はやけに嬉しそうだ。
「おめでとう拓海、夏美さん」
「おめでとう!」
「ありがとう……ございます」
祖父江家の面々にぐいぐいと背中を押され、思いがけないほど早く、私は拓海の妻となってしまった。