お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「ちょっと夏美ちゃん、朝から気になってたんだけど、これってなに!?」
各課から来た消耗品の注文票を整理していると、乾さんが私の左手を掴んだ。
「あ、これはえっと……」
乾さんの声に、庶務係全員の視線が私に突き刺さる。
拓海と入籍した翌日、出社してすぐに会社の人事課に行って、結婚の報告をした。しかし庶務係のみんなには、なんだか気恥ずかしくてなかなか言い出せずにいたのだ。覚悟を決めて、白状する。
「実は……週末入籍しました」
「はあっ? 俺はなにも聞いてないよ!」
添島係長の叫びとともに、庶務係全員が席を立ち私を取り囲んだ。
「すみません、言わなきゃ言わなきゃって思ってたんですけど、朝からなかなか言い出せなくて」
「どういうことなの。お相手は?」
「その人は、なにをしている人なんだい」
「ひょっとして、社長が持ってくるお見合いで出会った人?」
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて……」
一度に質問攻めにされて、たじたじになってしまう。
「お相手は、祖父江拓海さんという方で弁護士をしています。私とは、大学の同窓生です」
「まあっ、弁護士ですって!? 夏美ちゃん、やったじゃない!!」
乾さんもみんなも、自分のことのように喜んでくれている。
「清家さん、じゃなくてもう祖父江さんか。夏美ちゃん、結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
添島係長に続き、みんな口々におめでとうと言って拍手をしてくれた。