お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
あれだけ一緒にいて、嬉しい言葉もたくさんもらって、拓海にとっては友情から取った行動だったのかもしれないけれど、態度でそれなりの愛情も示されて。
それで拓海のことを好きにならずにいられるなんて、そんなわけがなかったのに。
今まで感じたモヤモヤも怒りも虚しさも、全て合点がいく。もうとっくに、私は拓海のことが好きになっていたのだ。
拓海の心が他の人にあるってことを見せつけられて、ようやく気がつくなんて。
これから私は、どうしたらいいのだろう。アプリを開くと、拓海から私を心配するメッセージがたくさん入っていた。胸が痛くて、スマホをぎゅっと握り締める。
ぽろっと涙が一粒こぼれて、道端に落ちた。とたんにたくさんの雨粒が落ちて来て、アスファルトの色を変えていく。
拓海をあてにしていた私は、傘を持っていない。それどころではなくて、途中で傘を買うのも忘れていた。濡れるに任せ、あてもないまま広場を出ようとする。
「やっと見つけた!」
強い力で、肩を掴まれた。驚いて振り返ると、息を弾ませ、見たこともないほど怖い顔をした拓海が立っていた。