彼は私の絵師なので!〜好きだから、渡さない〜
「女にぶりっ子は通用しないわよ」

その言葉に心愛は「ひどい!」と言いながら走り去る。しかし、去り際に樹里と紗英をしっかり睨んでいった。

「樹里ちゃん、紗英ちゃん、ありがとう。ちょっと困ってたから……」

ホッとしたような声で零は言う。樹里は「いえいえ!」と笑った。やはり友達として以外、樹里は零と接することができない。

「よかったらさ、今度うちで録音してみない?歌い手をやめた知り合いがいらなくなった機材をくれたんだよね」

頬を真っ赤に染めながら零が言う。その言葉に樹里は「へっ!?」と胸を高鳴らせた。いつも紗英が零を家に誘っている。零から誘ってくれるのは初めてだ。

「いいじゃん、いいじゃん!二人で録音して動画作りなよ〜」

紗英に耳元で囁かれ、樹里はますますドキドキしてしまう。しかし、このチャンスを逃したくはない。

「じゃあ、お邪魔していいかな?」

「うん、楽しみ!」

零はとても嬉しそうに笑い、樹里もニコリと笑う。まるでデートのようだ。
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