彼は私の絵師なので!〜好きだから、渡さない〜
樹里はスマホをかばんの中から取り出し、イヤホンを耳にさす。そして東京サマーセッションや惜別の向日葵、夜明けと蛍など夏らしいボカロ曲を聴き始めた。

「やっぱり音楽っていいな〜……」

歌を聴いたり、歌ったりしていると緊張も不安も薄れていく。そして何より歌い手をしていることで零に出会えた。樹里の頬が赤く染まる。

零の住むマンションの部屋の前に立ち、樹里は呼吸を整える。そして少し震える指で呼び鈴を押した。

「は〜い!」

ガチャリとドアが開き、ロングTシャツにサマーニットを重ね着したシンプルなコーデの零が現れた。しかし、シンプルなコーデでも零によく似合っている。樹里はドキドキしながら「おはよう」と言った。

「おはよう、樹里ちゃん!外暑いでしょ?麦茶用意するから入って!」

「お、お邪魔します!!」

樹里はそっと零の家の中へ入る。一人暮らしをしている男性の部屋とは思えないほど、部屋は整理整頓されていた。
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