彼は私の絵師なので!〜好きだから、渡さない〜
「へえ〜……。零ってこんな綺麗な部屋に住んでるんだ。私、片付けが少し苦手だから羨ましい」

樹里がそう言うと、麦茶を持って現れた零は「作業部屋はかなり散らかってると思うよ」と苦笑する。そして冷えた麦茶を樹里に渡した。

「今日はどんな曲を録音する?」

零が訊ねると、樹里は「歌いたい歌、たくさんあるんだよね」と言い歌いたい歌をまとめた可愛らしいメモ帳を取り出した。

「東京テディベア、虎視眈々、サマータイムレコード、告白ライバル宣言、愛欲のプリズナー……。確かにたくさんだね」

零がフフッと笑い、樹里は真っ赤な顔で俯く。するとその頭にふわりと手が乗せられた。

「じゃあ、好きなだけ録音していいよ。僕は樹里ちゃんの歌を聴いて樹里ちゃんのイラストを描くから」

「ありがと!」

樹里は笑顔になるが、すぐに零に頭を撫でられていることが恥ずかしくなり、立ち上がる。そして機材が置かれている部屋へと足早に向かった。高鳴りは止まらない。
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