皇太子は神の子に首ったけ〜異世界に転移してしまいました!?〜
この国ではオトメ──いわゆる処女であることが結婚の条件である。
女性は初夜にオトメを結婚相手に捧げるのだ。
男が侵入して結婚前の令嬢を襲う。
それは大層重い罪であった。
男はたった一言、“雇われた。”とだけ放ち、それ以降口を割ることはなかった。
一応、この家も公爵家。
簡単に侵入できるはずがないのだ。
ということは、内部のものが招き入れたと考えるのが妥当だろう。
そんなことをするであろう人は──ジュリアンただ一人。
そういう流れで持つようになったナイフがこんなところで役に立つとは…。
裾を持ち上げ、ナイフを取り出す。
普通に歩いていき、サッと糸を切った。
「…ジュリアン。そんな床に這いつくばっていたら、せっかくのかわいいお洋服が汚れてしまうわよ?」
なぜこけないのか、と驚いていた彼女に皮肉を込めてそう言う。
私の手に小さいナイフが持たれているのを見て、状況を理解したのだろう。
彼女は最大限に顔を歪めた。
「お義姉様も、裾を持ち上げてその醜い脚を晒すなんてどうかしているわ。はしたない。」
「そうね、以後気をつけます。」
軽く礼をしてから、その場を後にした。