君の秘密


 市野瀬くん、教科書を忘れたのならそう言ってくれればいいのにと思ったけど、市野瀬くんの口から言うわけがないのかなとも思った。


 だから。


「市野瀬くん」


 もう一度、私の方から市野瀬くんに声をかけた。

 授業中だから周りには気付かれないように小声でそっと。


「教科書、一緒に見よ」


 私は市野瀬くんの机にも教科書を半分置いた。


 市野瀬くんは私の方をチラッと見た。


 私の方をチラッと見てすぐに市野瀬くんは視線を正面に戻した。


 私は、そんな市野瀬くんのことを見て少しほっとした。

 私が教科書を半分市野瀬くんの机の上に置いたときに、ひょっとしたら市野瀬くんは私が半分置いた教科書をはねのけるかもしれないとも思ったから。

 意外……と言っては失礼になるのかもしれないけど、市野瀬くんも素直に人がしたことを受け入れるという気持ちはあるのだと思った。

 それにさっきも思ったことだけど、やっぱり市野瀬くんは根っからの悪ではないと思っているから。


 こうして私と市野瀬くんは一つの教科書を一緒に見ることに。


 そのとき。


「……ぃ」


 ……‼

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