今夜、あなたに復讐します
 使うつもりは毛頭ないが、受け取った方が頼久が安心しそうなので、とりあえず、受け取ることにした。

「……おじい様、ありがとうございます」
と言うと、頼久が少し涙ぐむ。

 おじい様のお気持ちは嬉しいけど。

 まるで、もう嫁に出る感じに盛り上がってるのが気になるな……、と思いながら、夏菜は立ち上がった。

「で、では、行ってまいります」

 スカスカのキャリーバッグに、ほんのちょっと洋服と化粧品と、お金の入った封筒だけを入れ、夏菜は屋敷を出て行った。

 みんなに見送られ、

 何故か縁側の柱の陰から見送っている銀次にも見送られ、

 夏菜は有生とともに、山を(くだ)る。

 少し先を歩く有生が、
「それ貸せ」
と夏菜のキャリーバッグを持とうとした。
< 186 / 432 >

この作品をシェア

pagetop