今夜、あなたに復讐します



 部屋の隅にちょこんと荷物のあまり入っていないキャリーバッグを置いたあと、夏菜は真っ白なソファに腰掛けようとしてやめた。

 汚したら申し訳ないなと思ったからだ。

 あまりにもモデルハウスな感じなので、自分が住む家という実感がない。

 夏菜は迷って、ソファの前に正座した。

 有生は、なにやってるんだ、という顔をしていたが。

 夏菜がそこに正座しているので、なんとなくなのか、有生も夏菜の前に正座した。

 開放感のある大きな窓から燦々(さんさん)と日は降り注ぎ、冬なのに、ちょっと暑い、と思いながら、二人で黙って座っていた。

「なにしたらいいんだろうな?」
と有生が訊いてくる。

 普段、仕事人間なので、こういうとき、なにをしていいのかわからないのかもしれないと思う。

 きっと休みの日でも、書類でも見てるんだろうな、と夏菜は勝手な想像をする。

 だが、そう思う夏菜自身、

 いつもなら、軽くみんなで山を走ってる時間なんだが、社長とふたりきりでなにをしたらっ?
と気まずい沈黙に焦っていた。
< 194 / 432 >

この作品をシェア

pagetop