今夜、あなたに復讐します
 一口呑んだが、あの鼻につく匂いがレモンの香りに紛れてしなかった。

 うん! と夏菜は微笑んだあと言った。

「……後から来る、セメダイン!」

 いや、これならいけますと言おうとしたのだが。

 あとから、やっぱり、あの匂いがしてきたのだ。

 有生が残念そうな顔をする。

「あのー、なんでそんなにセメダインを薦めてくるんですか」
と言うと、

「いや、無理強いして悪いなとは思ってるんだが。
 俺の好きなものをお前も好きになってくれて、一緒に楽しめたらいいなと思ってしまっただけだ」

 すまん、とグラスを持っていない方の手で、ぐりぐり頭を撫でてくれる。

 そのまま二人でオリオン座を眺めた。

「でもそういえば、寒いのに冷たいの呑んで大丈夫ですか?」
と訊いてみると、

「いや、そのうち、あったまってくるだろ」
と有生は言う。

「……ロシアの人みたいですね」
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