わたしにしか見えない君に、恋をした。
『八方美人になると、みんなから嫌われるよ~?つーか、あたしもサエコも正直最近の流奈ってなんか微妙だし』

ナナの言葉が突然フラッシュバックした。

「あたし、もう行くね」

喉がカラカラに乾いていた。

逃げてはいけないと頭の中でもう一人の自分が叫んだ。

でも、弱いあたしは逃げようと明子に引きつった笑みを浮かべてくるりと背を向ける。

早く。早く教室を出たい。

一目散に教室の扉に歩みを進めると、扉付近にあったゴミ箱に勢いよく足が当たった。

爪先に鈍い痛みを感じる。

「いたっ……」

足元には倒れたゴミ箱から溢れた紙ごみが散らばっている。

「ハァ……もう!」

自分の鈍くささに苛立ちを覚えながらゴミに手を伸ばそうとした時、ふいに目の前に体操着袋が転がっているのに気が付いた。

「え……?」

学校指定の青い体操着袋。

どうしてこんなものがゴミ箱の中に……?

手を伸ばそうとした時、スッと横から腕が伸びてきてそれを掴んだ。

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