わたしにしか見えない君に、恋をした。
「こんなところにあったんだ。私、バカだから間違ってゴミ箱に入れちゃったのかもしれない」

明子は体操着袋をギュッと胸に抱きしめる。

「えっ……?」

「って、そんな言い訳通用しないよね。本当はずっと探してたんだけど……みあたらなくて。だから、今日の練習は具合が悪いって嘘ついて見学したんだ」

明子が笑う。

その笑みに心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。

それと同時に、サエコとナナの会話が脳裏をよぎった。

『明子、今日見学なんだって~。しょっぱなからサボりとかなくない?』

『リレーの練習やるのが嫌でサボってるのかもよ?よかったね、流奈。あの子に押し付けられて』

間違いない。体操着をゴミ箱に捨てたのは、サエコとナナだ。

二人は自分たちのせいで明子が体育祭の練習に出られないと知っていながらあんなことを言っていたんだ。

そう悟った瞬間、全身が強張った。

「ごめんね、具合が悪いって流奈ちゃんにも嘘ついて心配かけちゃって……」

笑っている明子の目から一粒の涙が零れた。

「あっ、嘘……。私、どうして……」

零れた涙はとどまることなく溢れ続ける。

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