わたしにしか見えない君に、恋をした。
一度決壊してしまったダムの水のように涙は流れ続ける。

明子は必死に涙を拭う。

「……っ、なんで止まらないんだろう」

明子の涙を見たのはこれが初めてだった。

今まで、どんなときだって涙を見せなかった明子。

でもそれはあたし達の前でだけだったのかもしれない。

家に帰り、人知れず涙を流した日だってあったのかもしれない。

サエコもナナも言っていた。

明子には全然きいていない、と。

でもそうじゃない。そうじゃないんだ。

きっと必死で耐えていたんだ。

サエコやナナ、それからあたしの明子への嫌がらせに。

黙ってずっと我慢してきたんだ……――。

ひとりで。ひとりぼっちで。

最悪だ、あたし。自分のしてきたこと、見過ごしてきたことを思い返して苦しくなる。

もう目を反らし続けていることはできない。

「ごめん、明子」

ポロリと口から零れ落ちた。

頭で考える前に言葉が溢れる。

「本当にごめんなさい……」

「え……?」

「あたし、最低だ……」

明子は唐突なあたしの言葉に驚いたように顔を上げる。

あたしは明子の目をまっすぐ見つめた。

明子の茶色く澄んだ瞳にあたしの姿が映し出される。

話すなら今しかない。

あたしはずっと逃げていた。

明子から。弱い自分から。

でも、もう逃げないよ。逃げちゃいけない。
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