わたしにしか見えない君に、恋をした。
第三章
押された背中
――この5日間、湊があたしの前に姿を現すことはなかった。
体育祭当日。あたしは校庭で準備体操をしていた。
「流奈ちゃん、大丈夫?なんか顔色が悪いけど」
隣にいた明子が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「大丈夫。ちょっと寝不足なの」
「そっか。無視しないでね?」
「ありがとう。それより――」
「あぁ、リレーのこと?大丈夫だよ。気にしないで?」
何度もあたしがリレーに出るといったものの、明子は『大丈夫』といって聞いてくれなかった。
体育祭が始まってからも気持ちは晴れることがなかった。
クラスごとに分けられた椅子の一番後ろに座ってぼんやりと校庭を眺める。
サエコとナナは二人で楽しそうにおしゃべりをしている。
あたしは無意識に湊がどこかにいるんじゃないかと探してしまう。
まさか、このまま会えないなんてことはないよね……?
そんなこと絶対にありえない。あたしはまだ何も言ってない。
湊に何も伝えられていない。
「湊……どこかで見てくれてるのかな……?」
きっとあたしに隠れてみているに違いない。それで、あたしをバカにして笑うんだ。
あたしの大好きな優しい顔をして。