わたしにしか見えない君に、恋をした。
「ハァ……」

ドクンドクンッと心臓が脈打つ。

突然リレーの選手が変わったことにクラスの子達は少し戸惑った様子だったけど、「一緒に頑張ろうね!」と励ましてくれた。

小学生の時のトラウマに足がすくむ。

ここでミスをすればまた小学生の頃のようにみんなに非難されてしまうかもしれない。

でも、ここで逃げるのだけは嫌だった。もう逃げたくない。

人の目からも、嫌なことからも、自分からも。もうあたしは逃げない。

失敗したっていい。失敗しない人間なんてこの世にはきっと存在しない。

失敗した後、どうするか。どう考えるか。

きっとそれが大切なんだ。

それを教えてくれたのは湊だから。

だから、走る。

何があっても、あたしは走ってみせる。

ふぅと大きく息を吐きだした。

先生がピストルを天高く掲げる。

「いちについて、よーい」

――パンッ!!という音と同時に走り出す選手たち。

3順のあたしは息を飲みながらその瞬間を待った。

< 117 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop