わたしにしか見えない君に、恋をした。
2位でバトンが回ってくる。2巡目の子が走り出した。

どうしよう。手が震える。背筋が冷たくなって呼吸が浅くなる。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」

ギュッと目をつぶり、小声で必死に自分を励ます。

すると、突然背後に誰かの気配を感じた。

振り返ることはできないぐらい、一瞬のことだった。

でも、たしかにあたしの耳にその声は届いた。

「――流奈ならできる」

湊の声だった。

湊だ。湊がいる。あたしのそばに、湊がいてくれる。

2巡目の子が戻ってきた。次はあたしだ。あたしの番。

集中して。集中するんだ。

スタート地点に向かう。あと数メートルであたしにバトンが届く。

「――流奈ちゃん、いけー!」

その瞬間、どこからともなく声がした。

明子だった。明子が大声を張り上げてあたしに声援を送ってくれていた。

なにこれ。やだよ。なんか泣きそうじゃん。

「――はい!」

その掛け声と同時にあたしの手にバトンが渡った。

つかんだバトンを落とさないように握り締めて走り出す。

必死になって走ってもどんどん前の選手と距離を開けられてしまう。
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