わたしにしか見えない君に、恋をした。
体育祭が終わった後、クラスごとに片づけをすることになった。

校庭に出した椅子を片付けている最中、サエコと目が合った。

サエコはゆっくりとあたしの前まで歩み寄ると、唐突に言った。

「明子に全部聞いた」

「全部?」

「さっき、二人三脚の競技の後に聞いた。佐伯君のこととか……全部」

「そうなの……?」

明子、話せたんだ。

ホッと胸を撫で下ろす。

「本当はさ、分かってたの。あたしが佐伯くんに相手にされてないこと。でも悔しいじゃん。あたしが好きになる男、誰もあたしのこと好きになってくれないんだもん。全然うまくいかないんだもん。そんなの虚しいじゃん」

「サエコ……」

グッと唇を噛みしめているサエコ。こんな姿を見るのは初めてだった。

「明子が佐伯くんに告ったとか、抜け駆けしたとか……。そんなことしないって分かってた。あたしが佐伯くんとうまくいかないのは明子のせいだってみんなに思ってほしかった。そうすれば、あたしのプライドは保たれるから」

「うん」

「明子にしたことも、流奈にしたことも全部あたしの八つ当たり。分かってたよ。分かってたけど、もうどうしていいのか分かんないし。謝った方がいいって分かってんの。分かってるけど――」

「もういいよ。もういいから」

「ごめん、流奈。ごめんね……」

目に薄っすらと涙を浮かべたサエコの背中をさすっていると、「ちょっとどうしたの?」ナナがやってきた。

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