わたしにしか見えない君に、恋をした。
いなかった、とあたしが思い込んでいただけ……?

「えっ……」

湊はあたしのそばにいた。それなのに、あたしには見えなかった……?

湊が少しづつ消えていく。あたしの前から……。

「もうすぐ俺は消える。流奈の目にも映らなくなる」

「やだよ。いやだよ、そんなの……!」

「だから、今日だけ俺に時間くれない?」

「時間……?」

「残された時間、俺は流奈と一緒にいたい」

「湊……」

「もう自分がどこの誰かを知らなくてもいい。過去を振り返ってばかりいたけど、前に進みたい。俺はこれからのことを考えたい。俺がここにいられる時間を有効に使いたいんだ」

「うん……」

「最後の瞬間、俺は流奈と笑い合っていたい。俺の願い、叶えてくれない?」

湊の笑顔が涙で滲む。

きっと泣きたいのは湊のほうだ。

自分がどこの誰かも分からないなんてそんなの恐怖でしかない。

それなのに、湊はいつだってあたしに寄り添い手を差し伸べてくれた。

辛い時、そばにいてくれた。あたしは湊に救われた。

だったら、あたしは。あたしは一体湊に何ができるんだろう。何をしてあげられるんだろう。

分かってる。今はメソメソ泣いていてはいけない。

湊のたった一つの望みを叶えてあげたい。
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