わたしにしか見えない君に、恋をした。
授業が始まり、二人組になり向かい合ってトスの練習をする。

その練習中、サエコは近くにいた明子にわざとボールを投げつけた。

ボールは明子の背中に当たり、明子がよろける。

「あっ、ごめーん!!手が滑っちゃったぁ」

「ううん、大丈夫……」

困ったように笑って背中をさする明子は何事もなかったかのように前を向き、トスの練習を再開した。

「ちっ。なんかウザくない?余裕ぶっていられんのも今だけだから」

サエコが舌打ちする。

全く動じていない明子の様子は、サエコとナナの闘争心にかえって火をつけてしまった。

その日から、二人は競い合うように明子にネチネチとした小さな嫌がらせを繰り返すようになった。

教室の机の上にごみを置いたり、わざと聞こえるように悪口を言ったり、すれ違いざまに肩をぶつけたり。

嫌がらせ以上いじめ未満のギリギリの行為で明子を追い詰めようとした。

あたしはそんな二人を止めることができず、見て見ぬふりを決め込んだ。

『やめようよ』

そんなたった5文字を口にすることが怖かった。

言ってしまえば、今度はあたしが明子と同じことをされるかもしれない。

我慢してここまで築き上げた友情は、そのたった5文字で崩れ落ちてしまうかもしれない。

また中学のようになってしまうかもしれない。

そんなの嫌だ。絶対にいや。

だけど、二人が明子に嫌がらせをするたびにあたしの胸はちぎれてしまいそうなほど痛んだ。

――お願いだからもうやめてよ!!
――明子が可哀そうだよ!!
――少し前までうちら友達だったじゃん!?
――どうしてこんなことすんの!?
――明子が気に入らないなら放っておけばいいじゃん!!
――マジでいい加減にしてよ!!いじめなんてダサすぎだから!!

心の中で必死になって叫ぶ。

その心の声を口に出すことができれば、

何かが変わるのかな……?
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