わたしにしか見えない君に、恋をした。
『お前、うまいな』

中学2、3年生が多く委縮していた1年生の愁人に湊は気さくに声をかけてくれたらしい。

それから愁人は『湊先輩』と呼び、湊を慕い、湊は愁人を可愛がってくれたらしい。

結果は全国3位。愁人はレギュラーには選ばれなかったものの、チームを引っ張り続けた背番号10番の湊にひそかに憧れを抱いた。

中学を卒業し、高校に入学してからも湊と愁人は頻繁に連絡を取り合い、繋がっていた。

そんなある日、湊は偶然金山先輩に絡まれていた愁人を目撃した。

「あの日……部活のあと、俺だけ金山先輩に呼び出されて飯を食いに行くぞって誘われた。練習のあとでかなり疲れててあんまり食欲もなくて。先輩の行きつけのラーメン屋に行ったんだけど、結局食べきれなくて残したんだ。そしたら、無理矢理食わされて……」

愁人はグッと拳を握り締めた。

「店の外で吐いたら、それを咎められて先輩に何発も殴られた」


「なんでそんな酷いことを……」

「前から金山先輩は俺にだけ当たりが強かったんだ。そこに湊先輩がたまたま通りかかって……」

「湊が……?」

「それで、『やめろよ』って俺をかばってくれた。そしたら、金山先輩は『俺と愁人は仲良しだからって。それで姉ちゃんを……』」

愁人はそこまで言うと、口をつぐんだ。

< 150 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop