わたしにしか見えない君に、恋をした。
「愁人……?」

「『こいつの姉ちゃん、可愛いんだよ。今から愁人に呼び出させるから流川も一緒に遊ぼうぜ?』って。金山先輩の言い方には悪意があって……。先輩が女癖が悪いのも知ってたのに……。でも、ビビった俺は姉ちゃんに電話を……」

「そういえば愁人から電話がかかってきたことあったね。すぐ切れたから間違ったのかと思ってた……」

「『呼ぶ必要ないから』って湊先輩が俺のスマホを取り上げたんだ」

湊がそんなことを……。

「そしたら、湊先輩が金山先輩に言ったんだ。『お前、最悪な野郎だな』って。それで金山先輩がカッとなって、そばにいた俺のことを殴ったんだ。それをかばった湊先輩が……」

『――愁人!!』

突然のことで受け身を取れずに殴られた愁人が倒れそうになったとき、愁人をかばうようにして湊が下敷きになった。

その拍子に頭を強く打ち付けて……

「救急車で隣町の緊急病院に運ばれたんだ」

「それで、湊は……?」

「今もまだ意識が戻らない」

「湊はまだ……生きてるの?」

「生きてる。湊先輩は生きてるよ」

「本当に……?本当に湊は生きてるの……?」

愁人の言葉に全身がガタガタと震えだす。

湊が、生きている。この世界に、同じ世界に、いるんだ。
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