わたしにしか見えない君に、恋をした。

「駅までバスでいこう」

愁人と一緒に揃ってバス停へ向かう。

気持ちがはやる。

湊があたしの前から姿を消したのは、現実世界の湊が目を覚ましたから?

ということは、あたしの目の前にいた湊は生霊ということ?

考えれば考えるほど、頭がこんがらがってくる。

意識が戻ったといってもしゃべったりできるんだろうか。

頭を打っていると言っていたし、後遺症が残らないか心配だ。

それに……あたしのこと分かるかな?

あたしは湊のことが分かるけど、湊はあたしのこと分かってくれるかな?

「そんなことどうだっていっか」

独り言を呟いたあたしに愁人が不思議そうに首を傾げた。

そんなことどうだっていい。

湊が生きていれば、それだけでいい。

『生きてるだけでいいんじゃね?』

ふと、湊の言葉を思い出す。

そういえば湊も同じようなことを言っていたっけ。

あたしはいつのまにかどっぷり湊色に染まっていたみたい。
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