わたしにしか見えない君に、恋をした。

わたしにしか見えない

「ハァ……。なんか疲れちゃったなぁー……」

放課後、たった一人で屋上に向かったあたしはポツリと呟いた。

『今日は用があるから先帰るね?』

サエコとナナに一緒に帰ろうと誘われる前にそんな嘘をついて断る。

『えー、用って何?大事な用なわけ?今日一緒にカラオケ行きたかったのに』

不満げなサエコ。

用があるって言ってんだから、それ以上詮索してこないでよ。

めんどくさ。心の中で毒づく。

今日もまたタイムラインにサエコとナナの楽しそうな写真が並ぶんだろう。

リアルタイムの出来事をSNSに投稿して、周りのみんなにシェアする。

そうしないと周りのみんなに置いていかれちゃうから。

食べた料理の写真は毎回撮ってアプリで可愛く加工して。コメントを書かれたら、お返事して。

誰だかわかんないぐらい光飛ばして加工されてる自分の顔に『可愛い!』とか言わたら嬉しくて舞い上がっちゃって。でもすぐに鏡を見て現実に連れ戻される。

毎日毎日毎日毎日、それの繰り返し。

1日投稿しなかっただけで、『流奈~?生きてるー?』って誰かが連絡してきて。

生きてるに決まってんじゃんって思いながら『生きてるよ~!!てか、勝手に殺すなー』とかふざけて返信して。

最初は楽しかった。

現実でもネットでも、みんなにつながっていることが。

リアルだけじゃなく、ネット上の友達もできて、自分は特別な人間だって錯覚して。

フォロワー数とかいいねとかコメントが一つでも増えたら喜んで、減ったら凹んで。

あたしは一人じゃない。友達がたくさんいるって意味もなく安心して。

スマホ中毒なんじゃないかってぐらいスマホばっかりいじる生活。

だけど、少しづつめんどくさくなっていった。

メッセージに【既読】をつけてしまうとすぐに返事を返さないといけない。

すぐに返事を急かすスタンプを押されるから。

いつだってどこにいたってスマホを持ち歩かないといけなくなってしまった。

夕飯中にも誰かから連絡が来るかもしれないと、テーブルの上に置いておく。

それを見て母が言う。

『ご飯の時ぐらいスマホを気にするのやめたら?』って。

気にしないでいられるなら、そうするよ。

だけど、ダメなんだもん。気にしてないと、ダメなの。

みんなそうだもん。自分だけがやめたらそこに取り残されてしまう。

一度開いた溝はそう簡単には埋められない。

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