わたしにしか見えない君に、恋をした。
「ここ、いいよ」

俺の言葉に彼女は素直に従った。

リハビリが終わり髪をほどいた彼女の横顔はどこかなつかしさを感じさせる。

「秋月流奈です。愁人から話は聞いてます」

「タメ語でいいって。高2だろ?俺とタメだから」

「……そっか。じゃあ、そうするね」

ベンチに座った彼女は喉を鳴らして持っていたペットボトルのお茶を飲んだ。

「リハビリ、きついよな」

「うん。あたしは今日が初めてだったんだ。湊は?」

微笑んだ彼女に妙な違和感を覚える。

今、俺のこと湊って呼んだ?

――なんだ。この気持ち。胸の中がザワザワする。

「あっ、あれ。あたし何言ってるんだろ。ごめん、会ったばかりなのに呼びつけにして」

言った張本人が一番慌てていた。

「おかしいなぁ……」

「いや、呼び捨てでいいんだけどさ。俺、名前言ったっけ?」

「愁人に話は聞いてたから名前は知ってたよ。でも、あたしってば……なんでだろ……?」

「気にすんなって。なんか敬語遣われるよりそっちのほうがしっくりくるし」

「ありがとう」

白い歯を見せてふわっとした笑みを浮かべた流奈。その横顔に心臓がドクンと音を立てた。
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