わたしにしか見えない君に、恋をした。
やっぱり変だ。彼女のほんの些細な仕草から目が離せない。

「あのさ。事故にあう途中、どうして愁人と一緒に俺の病院に?」

「うん……。あたしもね、分からないの。どうして愁人と一緒に病院に向かおうとしたのか。その部分の記憶がないの」

噛みしめるように言葉を紡いでいる流奈。

「ほとんどのことは覚えているんだけど、何か大切なことを忘れちゃってるみたい」
「大切なこと……?」

「そう。本当にね、すごいすごい大切なことだった。絶対に忘れちゃいけないの。約束したはずなの。それを忘れちゃうなんてね」

流奈は俯いてギュッと拳を握り締めた。

「俺も」

「えっ?」

「俺もあるんだよね。流奈と同じ。すげぇ大切な何かを忘れてる」

流奈と目が合った瞬間、ふいに抱きしめたくなった。

でも、そんなことできるわけもない。

どんな女を見てもこんな気持ちになったことは一度もない。

それなのになんだこの気持ち。

手を伸ばしたい。彼女に触れたい。俺は無意識にそう願っている。

「――一緒に探そう」

「探す……?」

「一緒に大切なものがなにか、探さない?」

互いの大切なものを思い出す。

記憶を取り戻すんだ――。
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