わたしにしか見えない君に、恋をした。
ゆっくりと屋上の手すりに近づく。
自殺防止の金網は腰ほどしかなく、乗り越えようと思えば簡単に乗り越えられる。
もしも。この金網を乗り越え、屋上から飛び降りたら悩みはすべて消えるんだろうか。
もう何も悩むことなんてなくなる?苦しみも、悲しみも、痛みも、全部全部消えてなくなるの?
死ぬ時には何ももっていけない。
必死に増やしたフォロワー数なんて何の意味も持たない。
加工した写真だってそう。
「ハァ……」
急に自分の今までの情熱がバカらしくなって叫びたくなった。
あたしはそこそこの生活を送っている。
家族もいるし、友達もいるし、高校にも通っている。
いじめられているわけでもないし、サエコやナナという強い力を持つグループに属しているから今後へたなことをしない限りいじめられることはないはず。
きっとこの世界にはあたしよりももっともっと苦しい思いをしている人が大勢いて、死にたいと願っている人がいる。
そんな人に比べたらあたしの悩みなんて相当ちっぽけなものだろう。
だけどね、苦しいよ。息苦しくてたまらない。
高校生活は青春の1ページだって中学の時の担任が言っていたけど青い春なんかじゃ決してない。
今のあたしの心の中は晴れ渡った青ではない。
濁ったグレーに近い青。
いつになったら、きれいな青になるんだろう。
ずっとなんないのかな。あたしの人生は永遠に濁ったグレーに近い青?
ぼんやりとそんなことを考えていると、ふいに背中にスーッと冷たい風を感じた。
「なに!?」
バッと勢いよく振り返ると、そこには一人の男の子が立っていた。
「だ、誰!?」
屋上に人がいたなんてまったく気付かなかった。