わたしにしか見えない君に、恋をした。
しかも、すぐ後ろにいたのに気配すら感じられなかった。

驚いてそう尋ねると、男の子はあたしよりももっと驚いたように見つめ返してきた。

切れ長の瞳が丸くなる。

変なの。何で近付いてきたのに驚くの。

「お前、見えんのか?」

「……はい?」

「俺のこと見えてんだろ?」

ヤバっ。なんか変な人。

「えっ?ていうか、あなた……誰?」

見覚えのない制服姿の彼に首を傾げる。

彼の服装にも態度にも言葉にも違和感が募る。

まさか、転校生?だけど、なんで転校前の制服できちゃった?

まだ届いてないとか?えっ、だったら届いてからくるでしょ。

考えてみればみるほど分からずに首を傾げる。

「名前は湊(みなと)。苗字はわからない」

「はいっ?」

苗字が分からないって、その意味が分からない。

この人、まさかあたしをバカにしてるわけ……?

目の下が引きつる。

誰もいないこの屋上は、唯一心安らげる場所だったのに。

一人でゆっくりしようと思っていたのにわけのわからない彼のせいで台無しだ。

「もういいです。さようなら」

あたしは彼にそう告げて屋上を後にした。
< 18 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop