わたしにしか見えない君に、恋をした。
「ん」

「ありがと。ごめんね……」

近くの公園までやってきて自販機で買った飲み物をベンチに座っていた流奈に渡すと、流奈は泣きはらした目で礼を言った。

「なんか思い出した?」

「全部事細かに思い出せたわけじゃないの。だけど、ちょっとずつ思い出してきた。あたしの大切な人は湊と同じ、左利き。ぶっきらぼうな言い方するし、意地悪だけど、優しい人」

「そっか」

「どうやって出会ったんだろう。全部、思い出さなきゃいけないのにな。ずっとずっと忘れないって誓ったの。絶対に忘れないって。それなのに、あたし……最低だ……」

涙を流す流奈の手を俺はぎゅっと握った。

その手を離したくないと思った。

理由はわからない。ただ、離してはいけないという使命感に駆られた。

もう二度と、その手を離したくない――。

「湊……?」

その瞬間、目の奥で何かが光った気がした。

走馬灯のように様々な記憶がフラッシュバックする。
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