わたしにしか見えない君に、恋をした。
ぼんやりとした意識の中で

『湊先輩!!』

愁人が泣き叫んでいるのが分かった。

震える手で必死に救急車を呼ぼうとしている間に、あの男はしっぽを巻いて逃げた。

心底最低な野郎だ。

ああ、やべぇな。頭が切れたのかもしれない。相当な血が出てる。そこで、ふと気付いた。

どうして俺は自分のことを見下ろしているんだ。

どうして第三者の目で倒れている自分と泣き叫ぶ愁人を見ている……?

なんだ、これ。幽体離脱とか、そういうものか。よく分からない。

『おい、愁人』

愁人に触れようとしても触れられない。

俺の声も愁人の耳には届いていないようだ。

訳が分からない。なんだよこれ。なんなんだよ。

自分が目の前で救急車に乗せられて運ばれていく。
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