わたしにしか見えない君に、恋をした。
その姿を目で追っている最中、俺の意識はシャットダウンした。


気付くと道路の真ん中に立っていた。

『すいません、ここってどこですか?』

通りすがりのサラリーマンに声をかけても誰も俺の方を見ない。見ようともしない。
それどころか声さえ届いていないかのように俺を無視して通り過ぎていく。

なんだ、これ。

自分が誰の目にも映らないと気付いた時、俺はどうしようもない絶望感を抱いた。

今までの記憶はすべて消え、自分がどこの誰かも分からなかった。でも、名前だけはわかった。

『湊』

確かに俺は湊だ。でも、名字も住んでいる場所も年も分からない。制服を着ているところから見ると高校には通っていたらしい。

分かるのはそれだけ。自分の顔や体は鏡には映らない。

どうして俺は透明人間なんだ……?死んだのか?どこで?どうやって。

俺はどんな顔なんだ。どんな人間なんだ。どんな人生を歩んできたんだ……?

フラフラと歩き続けてたどり着いたのは、見知らぬ高校の屋上だった。

目の前には今にも屋上から飛び降りてしまいそうなほど思い悩んだ表情の女子生徒がいた。

彼女は腰ほどしかない金網の方へ引っ張られるように歩みを進める。

俺はとっさに彼女の方へ向かった。
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