わたしにしか見えない君に、恋をした。
「あの!どうしてあなたあたしについてくるの?」

屋上を出て家路を急ぐ。

そんなあたしの後ろを彼がついてくる。

「しょうがないだろ。お前にしか見えないんだから」

「あたしにしか見えないって何が?意味が分からないんだけど」

意味が分からな過ぎて自分の理解力がないのかと錯覚してしまう。

でも、絶対に変だ。

彼と言葉を交わしながら歩き曲がり角を曲がったとき、目と鼻の先に見覚えのある二人の後姿があった。

「やばっ!!」

思わず電信柱の陰に身を潜めて息を押し殺す。

こんなところにサエコとナナがいるなんて、予想外だった。

ここにいるのがバレたら、行きたくもないカラオケに連れて行かれるし、用があったって嘘をついたのがバレてしまうかもしれない。

今日は一人でゆっくりしたかったのに。

……こんなことになったのも、あたしの隣にいる彼のせいだ。

地団駄を踏みたいのをぐっと堪える。

「なぁ、なんで隠れてんの?」

「ちょっ、いいから黙ってて!!」

しっと人差し指を口に当てて彼を制止する。

横を通った自転車のおばさんはあたしを見つめて不思議そうな顔をする。

その時、二人の会話が耳に届いた。

「ていうかさ、流奈の用って絶対嘘だよね~?流奈ってたまに嘘つかない?」

「つくつく。しかも、わかりやすいんだよね」

「でしょ~?」

二人の会話に体中の熱がスーッと奪われていく。

用があるというあたしの嘘は簡単に見破られていた。

そして、予想通りあたしがいないところで、二人はあたしの悪口を言っていた。

唇が小刻みに震えて、目頭がカーッと熱くなる。

何よ、今さら。分かってたじゃん。悪口いわれるぐらい。

必死に自分自身を励ます。

分かっていたけどそれを目の当たりにするとやっぱりこたえた。

「おい、どうしたんだよ」

不思議そうな彼を無視して、ナナとサエコとは反対の方向へ駆け出す。
< 19 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop