わたしにしか見えない君に、恋をした。
「えっ?なに?どういうこと?」

鏡に近づいて覗き込む。

「どうして……――。どうして鏡に映ってないの?」

意味が分からない。

なにこれ。一体、なに?

「やっぱり鏡には映らないんだな」

いつのまにかあたしのすぐ後ろに立っていた彼が呟く。

でも、彼の姿は鏡には映っていない。

鏡の中にいるのは、目を見開いて驚いているあたしの姿だけ。

その時、ピンッときた。

今朝の金縛りもまさか……――!!

「う、嘘!!ていうか、もしかしてアンタ、幽霊!?」

「俺にもよくわからない。でも、こうやって話したりできたのはお前だけ」

「えぇーーー!?ウソ。やだ、怖いんだけど!!ていうか、今日金縛りにあったのも……そのせい?」

体中に寒気が走り、両腕を手のひらで擦る。

「あーーーー!!絶対そう!絶対そうじゃん!うわぁぁ。マジ無理!本当に無理!」

あまりの恐怖に涙はぴたりと止まる。

「ねぇ、今日あたしの布団の上にいなかった!?」

「布団の上?」

「あたしの体の上で寝てたんでしょ!?」

霊感なんてこれっぽちもないはずなのに、どうして!?

「お前、すげぇ失礼な奴だな」

「ていうか、なんであたしの前に現れたの!?成仏できてないの?」

「分からない。俺、自分の名前しかわかんないし」

「だからさっき、苗字が分からないって言ってたの?」

「そういうこと。年も、どこに住んでたのかも、自分が死んでんのかも分からない」

「ちょ……嘘でしょ。じゃあ、これからどうするの?」

「さぁな。とりあえず、お前とはこうやって話すこともできるし、しばらくはここにいさせてもらうわ」

「えぇ!?無理無理!!幽霊と一緒に暮らすなんて絶対に無理!!お願いだから、出て行ってよ!!」

「――ん?嫌だ」

これがあたしと湊との不思議な出会いだった。
< 21 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop