わたしにしか見えない君に、恋をした。
湊があたしの前に現れてから2日が過ぎた。

この日、外は季節外れの大雨が降っていた。

「ねぇ、これって明子の傘じゃない?」

放課後、昇降口でサエコがくいっと口の端を持ち上げて笑った。

「そうだけど……?」

嫌な予感がする。

ナナが続けて「持って帰っちゃう?」と笑った。

あたしは引きつった顔のまま、ただ二人の会話に耳を傾ける。

「持っていっちゃおうよ。明子、どんな顔するかな?」

「いいねぇ~!面白そう」

「じゃあ、明子が来るのここで待ってようか?」

【平山】という名前シールの貼られている傘を手に取り、サエコとナナは昇降口の隅に移動する。

「流奈、早く!!こっちこっち!!」

「あっ、うん……」

一歩で遅れて二人に続くあたしの耳元で誰かが囁いた。

「流奈、お前誰かのこといじめてんの?」

湊の口から出た『いじめ』その3文字に心が揺れた。

目があうと、湊は眉間にしわを寄せて表情を硬くした。

これは……いじめになるんだろうか……。

どこまでが遊びやからかい?どこからがいじめ?

その線引きがあたしにはよくわからない。

でもきっと、相手が嫌だと思った時点でそれはからかいではなく……いじめだ。

分かっていても今の状況では事実から目を背けるしかない。
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