わたしにしか見えない君に、恋をした。
「あっ、明子きたよ!!」

楽しそうに声を上げるサエコの声が頭に響く。

『誰かのこといじめてんの?』湊の言葉が耳から離れない。

上履きから靴に履き替えた明子が傘立てにあるはずの自分の傘を探している。

「あれ……?」

少し焦ったように傘を探す明子。けれど、どんなに探したってその傘が見つかるはずがない。

だって、傘はサエコが持っているんだから。

「おい、流奈。ちゃんと返せって」

足元に視線を下げて明子から目をそらすと、耳元で湊の声がした。

「こんなことしたらダメだって分かってんだろ?」

分かってる。わかってるよ……。

こんなことしちゃいけないってわかってる。

分かっていてもあたしにはどうすることもできない。

唇をキュッと噛みしめる。

「流奈」

湊の声が耳に残る。

―――うるさい。

何もしらないくせに。あたしがどんな気持ちかわからないくせに。

今までどんなに辛い目にあったのか知らないくせに。

こんな気持ち、男の湊にはわからない。

その間にも明子は困惑した様子で傘を探し続けている。

そんな姿を見て、サエコとナナは「アイツ超焦ってるんだけど。マジうける」と目を見合わせてクスクス笑っている。
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