わたしにしか見えない君に、恋をした。
ギュッと目をつぶると、明子と初めて喋った日のことを思い出した。

『流奈ちゃん、よろしくね』

明子の優しい笑みを思い出す。

高2になってからできた初めての友達。

その友達にあたしは一体何をしているんだろう……。

自分を責める一方、心の中にこんな気持ちもわき上がる。

でも、空気を読まずに4人組から抜けて行ったのは明子だ。

キッカケを作ったのも、明子。

傘を隠されたのだって自業自得。

言いたいことをあたしみたいにぐっとこらえていれば、こんなことにはならなかったんだから。

誰だってみんな自分の言いたいことをこらえて生きている。

相手に嫌われたくないし、みんなと仲良くしていたいから。

人と違うことをしていちゃダメ。

ちゃんと周りの空気を呼んで、人に気を遣って生きて行かなくちゃダメなの。

必死にそんな言い訳を繰り返す。

だけど、体の中が急激に熱を失っていくような感覚に襲われた。

それなのに頭の中はぐらぐらと燃えるように熱い。

「おい。流奈、聞いてんのか?」

痺れを切らしたように湊が再びあたしの名前を呼ぶ。
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