わたしにしか見えない君に、恋をした。
分かってる。わかってるよ。

こんなことしちゃいけないってちゃんとわかってる。

そんな気持ちを込めて湊に目を向ける。

だけど、ダメ。サエコとナナを裏切れない。

感情だけで動けるほど、あたしはもう子供じゃない。

でも、本当はこんなことしたくない。

しちゃいけないって分かってるんだ――。

「……流奈……」

あたしと目があった湊は複雑そうな表情を浮かべてた。

けれど、すぐに思いなおったようにあたしの腕をぐいっと引っ張った。

「ちょっ、わっ!!」

あまりに突然のことに驚いて声を上げながら前につんのめる。

湊があたしの腕を引っ張ったことを知らないサエコとナナは目を見開いて驚いていた。

「流奈!?アンタ、何やってんのよ!」

「やば。つーか、ばれたっぽくない?」

二人の言葉に明子のいるほうへ視線を移すと、明子がじっとこっちを見つめていた。

「どうする?返す?

「それしかなさそうだね」

サエコは渋々そういうと、傘を手に明子のもとへ向かった。

その後にあたしとナナが続く。

「これ、落ちてたから拾っておいてあげたの」

ありえない理由をさらっと口にして傘を明子に差し出すサエコ。

明子は傘を受け取ると、にこっと笑った。

「さっきから探してたんだけど、傘立になくて困ってたの。サエコちゃんが拾っておいてくれて助かったよ。ありがとう」

何の疑いもないかのようににこやかにお礼を言う明子に、サエコは渋い表情を浮かべている。

「別に。じゃあね」

サエコはそのままくるりと背中を向けて歩き出す。

その後に続こうとしたとき、明子と目があった。

あ・り・が・と。

明子は声に出さずに口だけであたしに合図を送ると、優しく微笑んだ。

その微笑みの下にある感情に気が付いて、胸が張り裂けそうになった。

あたしはいったい……何をしているんだろう。
< 27 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop