わたしにしか見えない君に、恋をした。
明子の目に非難の色が浮かんでいた気がしたから。

もしかしたら被害妄想かもしれない。自分に罪悪感があるからそう感じるのかも。

ただ、これだけははっきりと断言できる。

明子は気づいている。あたしたちが明子の噂話をしていたことを。

教室に戻ってきたタイミングであからさまに話をストップすれば誰だって気付くだろう。

胸が痛い。

心臓を鷲掴みにされたような不快感が全身に広がる。

あたしは唇を噛みしめて俯きながら心の中で叫んだ。

――あたしは直接的には言ってないから!!

――言ってたのは、サエコだし!!

悪口を言うサエコと一緒にいたということは、あたしも同罪。

明子をかばうことなく話に耳を傾けていたんだから。

それにそもそもあたしは知っていたんだ。

佐伯君に明子が告白したという話自体が嘘だと。

あの場で『えー、違うよ。明子は別に佐伯君のこと好きじゃないよ?』と言えばそれ以上明子が悪く言われることはなかったはずだ。

それなのに言わなかった。言えなかったのだ。

……言ってしまえばサエコに嫌われてしまうから。

あの場では黙っているしかなかった。そうだよ。しょうがなかった。

必死に心の中で言い訳を繰り返す。

そもそもあたしはそばにいただけで、明子の悪口なんて言ってない。

言ってないんだから――。
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