わたしにしか見えない君に、恋をした。
「泣き虫、流奈」

ゆっくりと歩みを進めるあたしの横で湊がポツリとつぶやく。

その時ようやく自分が泣いていることに気が付いた。

自然と頬を伝う涙。今日が雨でよかった。

傘で泣き顔を隠すことができる。

「うるさい。ていうかさ、そもそも湊があたしの腕を引っ張ったからこんなことになってんじゃん」

「ふーん。それなら、あのままでよかったのか?」

「あのままって?」

「傘隠し続けて楽しかった?」

「楽しいわけないじゃん。あんなことしていいわけない」

絶対に。

「だったらなんで止めなかったんだよ」

「だって……サエコが急に傘を隠そうって言い始めたからこうなったんだもん」

「さっきから自分は悪くないみたいな感じだけど、やめようって言えば済んだ話じゃね?」

「言ったら、ノリが悪いって言われるし」

「誰かのこといじめるのにノリがいいも悪いもあるかよ」

「……男の湊にはわかんないんだよ。女子には色々あるの。色々あるんだから……」

涙を拭いながらそうぼやく。

男は女ほど陰険じゃない。

女の大変さは、男には絶対に理解できない。
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