わたしにしか見えない君に、恋をした。
「そんなことねぇだろ」

「そんなことあるもん。あそこで傘を隠すのをやめようなんて言ったら、今度はあたしが外されちゃうし」

「それって結局、自分がいじめられるのが嫌なだけじゃん。だから、あの子がターゲットにされてんのを見て安心してるだけだろ?」

湊の言葉があまりにも図星すぎて思わず開き直る。

「だったら?」

「今度は開き直ってんの?」

「別に。でもさ、生きていくためにはしょうがないこともあるじゃん。理不尽なこともたくさんあるけど、結局我慢して生きていくしかないの。すべてが自分の思い通りにはいかないもん」

その言葉は湊に向けた言葉ではなかった。

自分自身にずっと言い聞かせてきた言葉。

我慢して生きていく……。

あたしがこの17年間、ただひたすらそれを守って生きてきた。

波風を立てないように、みんなに合わせて、笑いたくもないのに笑って。

そうやってあたしは生きてきた。

そして、これから先もずっとあたしはそうやって生きていく。

そうやって生きていくしかない。

あたしはその他大勢の中の一人で、サエコのように仕切ることもできないし、ナナのように積極的でもない。

平凡なあたしが学校というあの狭い空間の中でそこそこ快適に生きていくためには仕方のないこと。
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