わたしにしか見えない君に、恋をした。
我慢することも時には大事かもな?でも、ずっと我慢して生きていくのか?」

「それしかないもん」

「そんなのつまんねぇじゃん。人生なんて一度きりだし、自分だけのものじゃん。やりたいことも言いたいことも何もかも全部我慢して生きていくなんて俺なら絶対無理」

「それはそうだけど、湊はもう――!」

言いかけてハッとして口をつぐむ。

あたし今、最低なことを口にしようとしてた……。

「だよな。俺はもう生きてんのか死んでんのかも分かんないし」

湊はそう言ってふっと悲しそうに笑った。

「湊、ごめん……。あたし、無神経だった……」

「いいって。流奈の言うとおりだし気にすんな」

無理してるのがすぐにわかる。

「ごめんね」ともう一度謝って傘で顔を隠す。

湊がどうしてあたしの前に現れたのかも、どうしてあたしにしか見えないのかもわからない。

幽霊と一緒に行動するなんて鳥肌が立ちそうなほど恐ろしいけれど、今日は正直湊がいて助かった。

湊があの時あたしの腕を引っ張ってくれなかったら、あたしはさらに堕ちていたかもしれない。

明子へのいじめに加担し、更に明子を苦しめてしまったかもしれない。

『それって結局、自分がいじめられるのが嫌なだけじゃん。だから、あの子がターゲットにされてんのを見て安心してるだけだろ?』

湊の言う通りだった。

あたしは明子がいじめられているのに胸を痛めている反面、まだ自分はターゲットにならないとホッとしている。

偽善者という仮面をかぶっているあたしは、サエコやナナよりよっぽどたちが悪くて性格も悪い。

だけど、今までそれを面と向かって指摘してくれる人はいなかった。

それを湊はためらうことなく口にしてあたしを非難した。
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