わたしにしか見えない君に、恋をした。
それに……。

こうやって自分の気持ちを誰かに伝えたのは初めてだったかもしれない。

思ったままの感情をぶつけたことも……。

ずっと、誰かに自分の弱みをみせることが苦手だった。

だって、怖い。

自分の格好悪い部分やダメな部分を相手に見せたら嫌われてしまうかもしれないし、不快に思わせてしまうかもしれない。

だから、何か問題が起こっても『大丈夫大丈夫』と必死に自分を励まして、自分一人だけで解決してきた。

辛いとか悲しいとか苦しいとか。そういう感情もずっとずっと自分の中だけに押しとどめて生きてきた。

ぐっと奥歯を噛みしめる。

どうしてだろう。どうしてあたしは今、弱音を吐こうとしているんだろう。

どうしてだろう。なぜ彼なら受け入れてくれるかもと淡い期待を抱いてしまうんだろう。

「あたし、明子のこと傷付けた。マジで最低な女……」

あたしは今日、間違いなく明子のことを傷付けようとした。

明子が悪いんだと、必死に明子を攻撃していい理由を考えようとしてた。

弱い自分を守るために。

「気付けたならよかったじゃん」

「……っ」

「自分と向き会うのも大事かもよ」


湊は温かいまなざしをあたしに向ける。

「今みたいに思ったことを口に出せばいいんだって」

「……なんでかわかんないけど、湊には言える」

「俺が幽霊だから?」

「なんだろう。そんな気もするし、違う気もする」

「じゃあ、俺のこと信頼してるってことか?」

「それは違うかな」

「即答すぎ」

湊が唇を尖らせる。

「あーあ、最悪。なんか面白いことおこらないかなぁ」

大粒の雨が傘を叩く。空を見上げて思わずポツリと漏らした。

最近、全然楽しくない。いつだろう。

最後に心から笑うことができたのは。

「面白いことなんて空から降ってくるわけねぇし。見てたってムダ。自分でつくるしかないだろ」

湊はそういうと、あたしの手首をギュッと掴んだ。
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